poihoi’s writing

ぽいほいの書き物

病は気から検査から

「チクッ」「ギュッ」

夜中に胸の痛みで目が醒める。

 

体調を崩して仕事を辞めてから、絶不調の日々だった。

不安になって循環器病院に駆けつけた。

 

血液検査と心電図、レントゲンと一通りの検査を受けるが異常なし。

しかし医師から管攣縮性狭心症の疑いを指摘され、強く再検査を勧められる。

「活動中の昼間ではなく、就寝時や安静時に症状が出る病気です。なんらかの原因で冠動脈が痙攣して血液の流れが滞るのです。大学病院を紹介しますからそこで再検査を受けてください」

かくして一泊二日の検査入院が決まった。

 

検査当日、まず説明を受ける。「手首からカテーテルを入れて心臓に負荷をかけて症状の具合を見る検査です。検査自体は2、3時間で終わります。朝、検査に入り、終了後昼食を摂って、その後何もなければ夕方には退院できますよ」

「ただし、まれに手首からカテーテルが入らない場合があります。その時は鼠蹊部の大動脈からカテーテルを入れることになるので少し検査時間がかかってしまいますが……。ま、そうなる人はあまりいないので大丈夫でしょう」

後日、この説明をもっと真剣に聞いておけばよかったと、激しく後悔することになったのだ。

 

手術台に乗ったあたしの周りを、「実習生」の札をぶら下げた男女が取り囲む。嫌な予感が脳内を駆け巡る。

局部麻酔をかけられ、検査開始を今か今かと緊張して待つ。

 

突然天井からマイクを通して声が響いてきた。

「名倉さん、私は主治医の○○です。今日はこれから管攣縮性狭心症カテーテル検査をします。よろしくお願いします」

おっと〜、上から挨拶ですか!

ガラス越しに見えるその顔はかなり若い。またもや不安がよぎるけど、イケメンだからいかな。という根拠のない安堵感。

「では、手首からカテーテル入れますよ!」

すぐに手首に鈍い痛みが走る。そしてカテーテルが手首から身体の中を這い上がってくるのがわかる。なんとも気色悪い。

突然、カテーテルの動きが止まった。まだ肘までも行ってないはず。恐る恐る手首の方を見ると4、5人の実習生が集まっている。

 

急に手首の辺りがスッキリした感じがするな、と思ったのも束の間、再び手首に鈍い痛みが……。加えてゴリゴリ押し付ける嫌な感触。これが何回も繰り返される。カテーテルは一向に先へ進まない。

どうやらカテーテルがうまく入って行かないようだ。

「おかしいな」「もう一度抜いて」「もっと強く押して」「じゃ、こっちのはどう?」「だめだ!」

実習生たちの焦りの声と、マイクを通したやけに冷静な主治医の声が聞こえてくる。

手首はどんどん痛くなる。麻酔したはずだよね、なぜ痛い?

「痛いです! もうやりたくない。終わりにして!」

思わず叫んでいた。あたしは痛みに弱いのだ。

 

「名倉さん落ち着いて、大丈夫ですよ。手首からはカテーテルが入らないようなので、足の付け根の大動脈からに変更しますね」とマイクの声。

「もう、嫌です。もう、帰りたい!」駄々をこねてみた。

「大丈夫です。足から入れる方はこんなに痛くないですから安心してください。少し、休憩してからやりましょう」

上から眺めてないであんたがやりなさいよ! と言いたいが、主治医にはその気はないらしい。

しかし、なんとしてでも検査はやり遂げたいらしい。

 

休憩を挟んで、今度は鼠蹊部の大動脈からカテーテルを挿入。

先程のような痛みはないが、やっぱり気色悪い。

とにかく今度は順調に目的の場所まで届いたようだ。

ここからが肝心の検査。心臓に負荷をかけて状態を見るのだ。

手首の痛さから解放されたあたしはしばし放心状態。空腹すら感じている。

腹時計によると、お昼はとっくに過ぎているはず。

 

「名倉さん、どうですか胸が苦しいとかありませんか?」

突然、マイクから声かけられて我に帰る。

「え? 何ともないですけど」

「そうですか。それでは、もう少し負荷をかけてみますね」

痛みや胸の異変よりも空腹感がたまらない。

「名倉さん、今度はどうでうか? 胸が苦しくなってきましたか?」

「いえ、全然」

「おかしいなぁ。ではもう少し負荷を……。どうですか?」

「はぁ、どうと言われても……」

「では、もっとですね」

いやいやそんなに無理に負荷かけなくても良くないですか?

「今度はどうでしょう? 何か少しでも苦しく感じませんか?」

どうあってもあたしを苦しめたいのか。そうか、わかった。

「はい、なんだか少し、よくわかんないけど変な感じがしてきました」

「そうですか! 胸苦しさ感じますか、そうですか! 感じるんですね!」

歓喜あふれる主治医の声で、検査は終了となった。

その後の一時間以上にも及ぶ止血後、病室に戻ったのは夜の8時。

昼食どころか冷たくなった夕食にありついたのは夜の9時。

 

後日、検査結果を聞きに病院を訪れたあたしに主治医は自信たっぷりにこう告げた。

「あなたの病名は管攣縮性狭心症です」

そうでしょうとも!

 

《終わり》