poihoi’s writing

ぽいほいの書き物

難局を乗り越え世界を繋げた魔法の言葉それは……

「コップンカ〜!」

タイ語の挨拶言葉「コンニチハ」である。

 

2月の3日、タイに来た。

何しに来た、クライミングしに来た。

タイの首都バンコクから南へ約750kmに位置するライレイは、タイの秘境ビーチとしても知られるリゾート地であり、コルネの発達した石灰岩の岩峰群が聳え立つクライミングエリアとしても有名。

日本人だけでなく、多くの外国人クライマーで賑わうのだ。

私たちも、日本の寒さから逃れるようにこの地へやって来た。

 

眩しさマックスの青い空と白い砂浜!

日本の皆さんごめんなさいね、と言いたくなるような暑さ。

タンクトップにショートパンツ姿でクライミングを楽しみ、終わればビーチでビールをあおり、疲れた体をタイマッサージで癒す。

夜はビーチ沿いの店に繰り出してタイ料理を満喫する。

トムヤムクンだ、カオマンガイだ、パッタイだ、マンゴージュースだ……。

日本の皆さんほんとごめんなさいね。

 

さて、タイといえばタイ語、なのは当たり前。

でもね、ほとんど英語で話は通じてしまうのだ。
ボート漕ぎのおっちゃんも、ホテルのボーイさんも、マッサージ店のちょいババお姉ちゃんも、そこら辺走り回ってる子供たちも、みんな英語が話せるのだ。

だから、タイ語なんてできなくても英語さえ話せれば全然問題ない。

英語さえ話せれば。

 

その英語が全く話せないのが私。

自慢じゃないけど、語学は全くだめ。

海外に行けば語学の大切さを痛感するけれど、帰国すれば熱は冷める。

言葉なんてできなくたってどうにかなるし、身振り手振りのジェスチャーでお互いの意思なんて通じるでしょ!

と、大見栄きってる割に、英語の話せる友人に小判鮫のようにくっついて「ハハァン」とか言って、わかった顔で曖昧に頷いているだけ。

それでもマッサージ店では、覚えたてのタイ語「サバァイ!」(気持ちいい!)を連発してリゾート生活を満喫していた。

 

そんな楽しいタイ生活だが、注意しなければいけないことがある。

水質の悪さだ。

タイでは生水を飲んではいけない、これ常識。

英語はできないけれど、それくらいはわかる。

だから気をつけていた……はずだったのだけど。

暑さで頭がボケたのか、浮かれ生活で油断してしまったのか、どうやらどこかで生水を口にしてしまったらしい。

 

それは突然襲ってきた。

激しい腹痛と、下痢。

冷や汗かきながらベッドとトイレの往復すること数十回。

引き絞られるようなお腹の痛みで涙が出てくる。

悪いことに、頼みの綱の友人は出掛けてしまった。

今夜は、現地で知り合ったイケメンクライマーとレストランで食事の約束をしているのだ。

確か、B B Qを食べる予定なのにこれじゃあ行かれない!

なんとかせねば!

この下痢を止めなければ!

異国の地でのイケメンクライマーとのアバンチュールが……。

熱でも出てきたのか、妄想が汗とともにあふれ出る。

下痢止めさえあればなんとかなる!

 

が、あいにく下痢止めは持ってこなかった。

友人はまだ帰ってこない。

どうする、どうする佳代子!

そうだ薬局へ行こう!

ホテルの近くに薬局があったことを思い出した。

財布を持って、ビーチサンダル突っかけて、髪振り乱して、痛みに耐える鬼の形相で薬局に駆けつけた私。

「下痢止めください!」

と叫ぼうとして固まった。

 

え……と。

下痢止め、って英語でなんて言うんだっけ?

お腹痛いって、なんて言うの?

薬ちょうだい、は?

具合が悪い、は?

なんて言ったらいいの〜!

言葉が全く出てこない。

とにかくなんとかこの状況をお姉さんに分かってもらわないと、B B Q食べられない。

 

「あの、お腹、お腹ね、痛いの」

「でね、下痢、下痢してるのよ。わかる?」

「だからね、下痢止め、欲しいの。下痢止め、ください!」

お姉さんは困ったような顔をして立ち尽くしている。

そりゃあ通じないわ。全部日本語だもの。

 

お腹は痛いし、漏れそうだし……。

「神様、英語なんてできなくたってどうにかなる、なんて言ってた私をお許しください。

日本に帰ったら真面目に英語を勉強します。だからお願い、お姉さんに日本語通じて!」

と、支離滅裂な神頼みをしてる時、ふと閃いた!

そう、これよ!

 

「お姉さん、見て! お腹シクシク、お尻シャーシャー!」

と日本語で言いながら、お腹を指差して「シクシク」と繰り返して顔を顰める。

次に腰を曲げてお尻を後ろに突き出し、そのお尻に拳を作った右手の甲を当てて「シャーシャー」という言葉とともに指をパッパッと開いて見せたのだ。

必死の形相で動作を繰り返す私を見ていたお姉さん、大きく頷くと「オーケー、オーケー!」と笑いながら後ろの棚から薬を取り出してきた。

 

それはまさしく私が欲しかったもの、下痢止め!

そう、これですよ!

なんとよく効きそうな下痢止めではないか!

やっぱりジャスチャーは万国共通。

いざとなったら言葉なんか通じなくたって、ジェスチャーでなんとかなる、意思は通じる。

神様、とりあえず英語は後で。まずはB B Q行ってきます。

 

イケメンクライマーと肉頬張りながら「シクシク」「シャーシャー」。

さぞかしロマンチックなディナーになることだろう。