poihoi’s writing

ぽいほいの書き物

誰よりも君を愛してしまうがな!

ゴ・キ・ブ・リ。

生きている化石とまで言われていて、その出現は今から2億6000万年前と言われている。

現在、全世界に約4,000種、総数にして1兆4,853億匹、日本には236億匹もいらっしゃるのだ。恐ろしいほどの数だ。

平安時代には都乃牟之(つのむし)、江戸時代に油虫と呼ばれるようになり、俳句の夏の季語にさえなっていたらしい。失礼だが、江戸時代の人の風流感覚が理解できない。

ゴキブリと呼ばれるようになったのは明治時代からのようだ。

百科事典に記載されている「御器噛(ごきかぶり)」という呼び名がからきているという説がある。器でさえも噛む……虫。

 

暖かい地方のゴキブリは大きい。

沖縄のゴキブリもタイで出会ったゴキブリも大きかった。

反対に寒い地方にはゴキブリはいないという。

最近は温暖化の影響もあって全くいないわけではないようだが、北海道にはゴキブリはいないという。北海道で生まれたかったなぁとつくづく思う。

 

本当なら、生命力の逞しさと、いつでもどこにでも姿を見ることができる親しみやすい生き物として人気があってもいいはずなのだが、ないのだなこれが。なぜ人気がないのか、今さら説明はいらないだろう。

自分にも、ゴキブリとは心温まるいい思い出など一つもない。

 

 

小学3年生のあたしと当時幼稚園生だった妹と二人留守番をしていた時のことだ。

水を飲もうとキッチンに入ったら、タイルの目地の隙間から小さなゴキブリが一匹チョロチョロ這い出てくるのを見つけた。

「やっつけなければ!」と、そばに置いてあった殺虫剤を吹きつけた。

ゴキブリは大慌てで出てきたタイルの目地の隙間に逃げ込んだのだ。

逃すものか! と、その目地の隙間に思いっきり殺虫剤を吹きつけたのだ。これでもか、これでもかと吹きつけ、缶が軽くなってきたのを感じてこれで安心とばかりその場を離れた。

 

数分後、何やらモゾモゾとした嫌な雰囲気を感じてキッチンの方を見に行くと……。

殺虫剤を吹きつけた目地の隙間からゴキブリがゾロゾロ這い出てきているではないか!? 

ゴキブリの大行進だ。

殺虫剤を大量に吹きかけたことで、タイルの中に潜んでいたゴキブリたちが苦しくなって出てきたのだ。

あの茶色いテカテカした背中が、何十匹となく調理台や流しを整然と列をなしてリビングに向かって行進してくる。ザッザッザッザッという足音さえ聞こえてきそうだ。

まずい。

ゴキブリたちのリビングへの侵入を許してしまったら大変な事になる。

小学生だったあたしにもその危機感は強く感じた。

なんとかキッチン内でことを収めなければならない。

それにはこのゴキブリたちを退治しなければならない。

ううう〜、気持ち悪い。怖い、でもやらなければやられてしまう〜!

妹にも手伝わせようと振り返ると、すでに戦意喪失して泣きじゃくってばかりで役に立たない。

仕方がない、この姉がなんとかするべしと意を決して殺虫剤とティシュペーパーの箱を手にゴキブリに占拠されたキッチンに一人果敢に飛び込み、泣きべそかきながらゴキブリ退治をしたのだ。

何も知らずに帰宅した母にしがみついて、わんわん泣きながらことの次第を語ったことは今でも忘れられない。この一件は今でもトラウマになっている。

 

中学生の時、家の中リビングの壁にゴキブリが止まっているのを発見。

早く退治を! 

母が殺虫剤を持ち、キッチン闘争の時はピーピー泣いていた妹もテイッシュを手にしてやってきた。

いつ攻撃仕を掛けようかと三人で頃合いを見計らいつつゴキブリを見つめていたら、ゴキブリがいきなり飛び立った。しかもこちらに向かって挑むようにブンッ、と。

「あわわわわわぁ!」

飛ぶことは知っていたけど、まさか本当に! しかもこちらに向かって! なんと不敵な!母、妹、あたし、三人揃ってのけぞってしまい、その隙にまんまと逃げられてしまったこともあった。

 

高校時代からの家族ぐるみの付き合いをしている友人がいた。

友人宅で夕食をご馳走になりおしゃべりに花を咲かせていたら、なぜか話題がゴキブリのことになったのだ。

「そういえばさ、この間お風呂から出てきて体拭いていたら目の前をすんごい大きなゴキブリが歩いていたのよ」と友人。

なんかすごいシチュエーションでゴキブリと遭遇だな。

「なんと!? で、どうしたの? 風呂上がりってことは裸だったんでしょ?」

「そうなのよ。夫も出かけていて一人だったし、困ったなと思ってさ」

「だよね〜! 想像するだけで怖い! 逃したら逃したで、どこかにいると思うと気持ち悪いしね」

「そうなのよ。だから、バンって足で踏み潰した」

え? え? え〜?

「足って……。だって裸で、素足でしょ? え? 素足で踏み潰したの? え〜?」

「まね、ちょっと気持ち悪かったけど。でも、足なら洗えば綺麗になるじゃない」

いやいやいや、恐れ入りやの鬼子母神

この時ほど彼女を尊敬して、こんな彼女と一緒に暮らしている彼女の夫がとてつもなく羨ましいと思ったことはない。

 

ゴキブリを退治できる人。

これはあたしの結婚の必須条件だ。

 

《終わり》